オヤツのオトモ(5)愛深き女
皆川明『皆川明の旅のかけら』
文化出版局、2003年、1500円

 私は物欲の権化なので、モノに愛を捧げてしまう。食欲の化身でもあるので、食べ物にもまた然り。

 今日は、私が愛してやまぬ洋服のブランド『ミナ ぺルホネン』のデザイナー皆川明の本を持って、代官山にあるカフェ『ママタルト』で愛溢れるパイを頬張りながら、まったりとお茶。

 『ママタルト』の手作りパイは、しっかりした味わいで何を頼んでも当り外れなく美味しい。ランチ兼用で、きのこと玉葱とパルメジャーノチ−ズのキッシュを頼んだら、チーズの香り漂う中、玉葱は甘く、パイはサクサク。言葉にするとよくある表現だが、「想像した通りに美味しい」というのは、実に稀。

 『皆川明の旅のかけら』は、雑誌『装苑』での著者の連載をまとめたもので、『ミナ ぺルホネン』の物語性を秘めた独自のテキスタイルや、高度な職人技術が可能にする布の表現力等々について語られている。鳥が木の枝を加えて飛んでいるデザインなど、可愛いテキスタイルの写真も魅力的だが、何より、著者のモノ作りに対する真摯な態度が伝わってくるところがいい。

 キッシュを食べながら本を読んでいて、魂が震える程シアワセだなぁと思った私は、馬鹿のつく程の幸せ者か。愛した分幸せな心持ちにしてくれるなんて、何だか恋愛よりステキだわ。権化万歳、化身上等な、そんな愛深き秋。

*こちらのコラムは[書評]のメルマガ vol.140(2003.11発行)に掲載されたものです。


実はこの後、ケーキも買って帰って食べました。


代官山『ママタルト』にて